カテゴリー「小説-Magic Umbrella」の23件の記事

ジンⅢ

俺はまたマザーに尋ねる。

「ここは?ここで私はなにをすればよいのですか?見たことろ まだ終焉を迎える星には
 見受けられませんが。」

「分からぬ。ただ私に分かることは ここにお前は行かなくてはいけないということだけじゃ。
 この星が私の祝福の歌を聴いて・・・もう何十億年経ったのか・・・・・・・
 まだまだ未熟な星なのだが・・・・」

戸惑いを含んだマザーの思念波が頭の中に響く。

「この星の同朋達がどのようであるかは分からぬ。ただ祝福を受けたものたちであることは
 確かなのだ。ジンよ、いつもお前に終焉の歌を、宇宙へ散ってゆく同胞達を我が元に連れ帰って
 もらってきたが・・・・この星の同朋達の声はとても小さく、我が耳にはほとんど聞こえてこぬ。
 同朋達がどのように人間達とともに生きているのかも分からないのじゃ。
 ただ・・・ただ・・・わかるのはお前がこの星に行かなくてはいけない、ということだけ。
 どうかジンよ。まずこの星に赴き、この星の同朋達の様子を私に伝えてはくれまいか・・・・」

今までに受けたことがない指令であり、正直俺にも戸惑いはあった。しかしマザーの願いで
ある。その願いに背こうという気はなかった。

「わかりました、マザー。この星に赴き、その見たもの聞いたもの全てを報告いたします。」

もう声ではなかったが、頷くような波動が頭の中に響いた。

「さあ。そうと決まったら行くとするかホール。ん、どうしたホール?」

ホールは少し呆けたような表情で口をパクパクさせている。

「ホール?」

「お、おぉ。そうじゃな。行くとするかの。たまには終わりばかりじゃない生きた星に行くのも
 いいもんじゃて。」

そういうとホールはまた甲羅の中に首を引っ込めてしまった。まったく考え事が好きなヤツだ。
俺はまた傘を広げると、傘の内側に広がる宇宙、その中でも小さくとも一際青く輝く星のほうに
向かって身を投げた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

数瞬後、俺は青く輝く星を足元に見下ろすような形で宇宙空間に姿を現した。ポケットの中を
まさぐるとホールもちゃんといる。俺はしばらくその美しい輝きを見つめていた。

「さて、どうするね?」

ポケットの中からホールが顔を出し俺に尋ねる。

「決まっている。いつまでもここにいても仕方ないだろう。降りるさ。そのために来たんだからな。」

「・・・そうじゃな。ところでジン、すまぬが大気圏突入の際にはしっかり右手でワシを押さえておいて
 くれるかの?」

「なんだ、珍しい。ホールがそんなことをいうなんて。何度もそんなことは経験してるじゃないか。
 ホールとあろうものが怖気づいたのか?それとももう歳か?」

「うるさいわい!・・・いや、この星を見ていたら いつぞやの星で大気圏突入したときに
 海の中に放り出されたことを思い出してな・・・・・。」

「そういえば そんなこともあったな。まぁ、いいじゃないか。どこに放りだされても俺はお前の
 場所を感じることができるんだから。」

「しかし、水深1万メートルの海の底で また5年も待ちたくないからのう。とにかく頼んだぞ。」

「わかった、わかった。まったく臆病な亀だよ、お前は」

「亀と言うなというのに!まったく。 まぁええわい。さぁ じゃあ行くとするかの。」

俺は傘を閉じるとそのままその星の重力に導かれるように その星に向かってダイビングを
開始した。大気との摩擦で自分の体が高温を発しているのが分かる。
通常であれば、俺の体はともかく身に着けているものは全て燃えつくされてしまうのだろうが
今の俺の体は俺の周りの含め、俺の中にいるフロウが守ってくれているため 服すら燃える心配はない。

「どうだ?ホール。今回は海に放り出されずに済みそうだぞ。」

ホールの返事は無い。いや、ホールは小さな声でなにかを唱えている。その声に耳を傾けると・・・

「おいっ!ホール!どういうつもりだ!? なぜこんな時に『開放のスペル』を詠唱するっ!」

自分の体から、 エレンが、ソウルが、フレアが、プライが この星の大気の中に散ってゆく。

「おい!ホールなんとか言えよっ!」

俺は慌てて右のポケットからホールを取り出し、そのまま自分の手から離そうとした。しかし 何の力が
働いているのか ホールは自分の右手から離れなかった。そして そのホールの体が今度は銀色に
輝き出す。

「お前、それは俺がお前に記憶を預けるときの・・・・! やめろ、何をするっ!?」

銀色に光った体から首を出し、申し訳なさそうにホールは言った。

「すまんのう・・・・。全てはマザーの心のままに・・・・・」

「マザー!!?」

俺がそう叫んだ瞬間、フロウが地面に激突するのを避けるため俺の周囲に猛烈な圧力で
水蒸気を噴出した。

幾分 落下速度を落としながら それでもかなりの勢いで俺は地面に激突した。

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ジンⅡ

---滅びの歌が聞こえるか---
    ---誰の耳にも届かない---
         ---滅びの歌が聞こえるか---

---どれほど遠くにいようとも---
     ---我が同朋の最後の歌を---
                         ---受け止める---



「ここは・・・どこだ。」

俺は見知らぬ草原で横たわっていた。知らぬ間に自分の体に夜露が降りている。
空を見上げれば満点の空。大気浄化装置が全土に広がりつくされている この星の大気は
驚くほど透明度が高い。数え切れぬほどの瞬きが自分の真上から降り注いでいる。

「やれやれ、やっと起きたのかの。」

俺は横になっていた自分の右手のほうを見る。見ると一匹の亀が首だけ伸ばしてこっちを
見ている。

(そうか・・・・ホールに記憶を返してもらったんだったな・・・・)

「取り敢えずお主の記憶の1/3程を返しておいたぞ。どうじゃ声は聞こえるのかの?」

目を閉じ、自分の体に耳を澄ます。エレン、フロウ、プライ・・・皆元気そうだ。笑い声に
おしゃべり、言い争いする声 聞きなれた声ばかりだ。

「あぁ。聞こえる。みんな元気そうだ。」

「そうか。それはなにより。ワシには声まで聞こえんからのう。それでは聞かせてもらおうか。
 貴重なバカンスを7日も繰り上げて行かなくていけない仕事とやらを。」

「知らん。」

「・・・・・・・・へ?」

ホールの小さい目が開かれた。

「マザーからの連絡はお前を連れて 馳せ参じろということだけだ。」

「あのマザーがか?」

「そう、あのマザーがだ。」

それを聞くとホールは首を引っ込めてしまった。これはこいつが考え事をするときのいつもの癖だ。
確かにホールが考え込むのも分からないでもない。いつもであればマザーは俺の頭の中
に直接指令を送ってきて、呼び出したりすることはなかった。マザーの下に訪れたのは・・・
そう、俺がこの任に就いた時、もう5000年も前になるだろうか、以来だった。
ホールを見ると首を引っ込めたままピクリとも動かない。

「考えていても仕方ない。まずは指令どおりマザーの下に駆けつけるとしよう。」

返事もしないホールを革ジャンのポケットの中に押し込むと、俺は左手を天に掲げた。
その左手に様々な色の光、そして闇が集まってくる。それら全てのものが収縮され
この次元に形つくるのに1分ほどかかった。

「マザーの所までは遠いからな。今回はこいつを使うとしようか。」

傘の形になったそれをバッと広げると、その傘の内側に広がるのは満天の宇宙。
自分の頭上にある宇宙より光瞬き、深い闇を持つ。

俺はその傘の中の宇宙に身を投げた。



-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


オリオン座の三ツ星ベルト、その一番左端の星の傍にある馬頭星雲。この宇宙の中でも
有名な暗黒星雲が全てマザーだと知れば、宇宙にいる生命体は驚きを禁じえないだろう。
光を通さないこの暗黒物質が少しづつ形を変えながらも、生まれ来る星たちに祝福の歌を
歌い続けていることを知っているのは、我が同朋達だけだ。

我が同朋の力を借り、宇宙を旅する人間たちもそのことは知らない。
同朋達は星とともに生まれ、マザーの歌に祝福される。そしてその星がその命を終えるとき
己もまたマザーの一部となり新たに歌を歌い始める。
同朋の中でも異端である俺もまた遠き時間の果てにマザーの一部となるのだろう。しかし
それはまだ先の話だ。

そんなマザーの体内。暗黒物質の海の中を俺とホールは漂っていた。マザーが語りかけてくるのを
待っているのだ。

しかし、もうここに来て数ヶ月程の時間が経っていた。それなのにマザーは俺の頭の中に
何も語りかけてはこなかった。この暗黒星雲自体がマザーなのだからいないというわけではない。
実際マザーの波動は確かに自分に伝わってきていた。しかしそれはいつもとは違う波動である
ことも自分には分かっていた。

「迷っているようじゃな・・・珍しいことじゃて、マザーともあろうものが・・・」

ホールが首をひょっこり伸ばし、俺のほうを見て言う。

「ワシを連れてこい、というのじゃから またいつものように終焉を迎えた星から同胞達を連れ帰る仕事かと
 思うとったが、どうも違うようじゃな。」

俺は無言で小さく頷く。このまま待っていても仕方ない。俺は頭の中でマザーに声をかける。もう何度目だろう。

「マザー? 返事をお願いします。今回の指令は・・・・・」

そういいかけた時にようやくマザーからの思念波が頭の中に響く。

「ジンよ。我が同朋、我が分身よ。お前はこれから一つの星に赴くのだ。」

その声と同時にその星の座標が頭の中に浮かび上がる。赤く燃え盛るプロミネンス。
その星を中心として公転する一つの青い星。海と大気の色だろうか。これほど鮮やかな
星は宇宙広しといえどそうはない。

「ここは・・・?」

マザーはまだ迷っているようであった。

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ジン

「何者だ?どこから来た?」

ぶっきら棒に訊ねる声を無視して俺はそのまま歩く。
後ろから追いすがるように中年の男がついてくる。早足で歩く俺についてくるのが
精一杯のようだが そんなことはどうでもいい。

「お、おい・・・なんとか言ったらどうなんだ。待て!待たんかっ!」

起こったような口調だが、ゼイゼイ言いながら喋るものだから迫力はあまりない。
鬱蒼とした森の中の道を15分も歩くと 突然道が開けた。明るくなった視界に
目が慣れると 広がっているのは大きな池だ。ただし池の手前には 有刺鉄線を
身に纏ったフェンスが その侵入を阻んでいる。

「ここか・・・・。」

そう、己の細胞一つ一つがここがその場所であることを告げていた。ここにそれがあることを。
10秒ほど遅れて追いついてきた警備員が俺に追いつく。

「おい!ここは私有地だ。立ち入っちゃいかん!出て行け!」

振り向くと その男は腰につけている特殊警棒に手をかけている。

「け・・・・警察を呼ぶぞ。」

対面した俺の表情を見て 少し怯えたような様子で警備員が話す。俺はそんなに不気味なのだろうか。
なにも驚かそうとここに来ているわけではない。少しは警戒を解いてもらおうと『笑う』という表情でもしてみるか。
俺はそう考え口の両端の筋肉を吊り上げてみる。

その表情を見て 何故かその男の顔が引きつる。どうも警戒を解いた様子は無い。それどころか
右手にかけた特殊警棒の柄についてるスイッチを入れる。バチッという音がする。
どうやらスタンガンの機能まで着いているようだ。同時に肩のところについている通信機に叫んでいる。

「こちらB-14ブロック。怪しい男が侵入した。至急応援乞う!侵入者の目的は不明。至急応援乞う!!」

そんなに俺は怪しいやつに見えるのか?どっちにしろ この警備員に用があるわけではない。
怯えて 警棒を構えている男を一瞥して 池のほうに目線を戻す。
そう、用があるのはこちらのほうなのだ。俺は邪魔なフェンスに手をかけ、よじ登ろうとする。

「ま・・・待て!そのフェンスには・・・」

警備員が止めようとする前に俺の手は金網をつかんでいた。

バチバチバチッ!! 

どうもこのフェンスには高圧電流が流れていたようだ。握った両手から 肉のこげる臭いがする。
もちろん焼けているのは俺の掌だ。

「お、おい?大丈夫か?」

恐る恐る警備員は俺に聞いてくる。思ったより悪いやつではなさそうだ。心配させては悪いと思い もう一度男のほうを
見て笑いかける。

男は驚いて 腰を抜かしてしまったらしい。腰を抜かしたまま ズリズリと後ずさろうとしている。

「そ・・・そんな馬鹿な・・・・!」
「なかなか有効なエネルギーだった。」

俺と男の声が重なった。男はもう それ以上声をだすことは出来ないようだった。
俺はそのまま足も金網にかけ フェンスを乗り越える。
そして 池のほとりに立つ。

「いるんだろ?出てこいよ?」

池に呼びかける。しばらく池の表面を眺めていたが 風が水面を揺らすばかりで何の変化も無い。
3度ほど同じように呼びかけてみるが、何も変わらない。
気長に待ってもいいのだが、じきにさっきの警備員が呼んだ仲間が駆けつけるのだろう。
そうなると また先ほどのようなやり取りをしなくてはならない。

(やれやれ・・・・)

「少し食事も過ぎたことだし・・・・・」

そう呟いて、右手を水面に近づけようとした時だ。

「やめんかいっ!」

小さいがはっきりした声が聞こえた。水面を見てみると 一匹の亀が水面から顔を覗かせている。

「なんだ。起きてたのか?」

「起きてたのか?じゃないわい。 ジン、今お前なにをしようとしてたんじゃ?
大方、さっき喰らった電流を放電しようとしてたんじゃろうが・・・・
儂はともかく この池の生き物全部感電死させるつもりか、この阿呆が。
大体、バカンスが終わるのは1週間ほど先のはずだろうが。」

「予定変更だ。大体5年も姿を見せず、定期連絡もいれないのは重大な服務規程違反だ。探すにも一苦労だ。」

「ええじゃろう、別に。どうせ お前さんが探すだけのことじゃし・・・・」

俺は無言でもう一度手を水面に近づけ、人差し指の先を水に入れる。その途端、水面に何十匹もの魚が浮く。

「わかった、分かった!今そっちに行くから待っちょれ。」

「最初っからそうすればいいんだ。」

足元まで泳いできた亀の甲羅をひょいと掴む。


「では、返してもらうぞ、俺の記憶を。」

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星見の姫②

瞳の中に星が流れる
それは悠久の刻の終焉
また一つ涙が流れ
その瞳は透明になっていく

          
              もうどれほどの終わりを見てきたことだろう
              もうどれほどの涙を見てきたことだろう


何も出来なくてごめんね
終わりを告げることしかできなくてごめんね
せめて心にあなたの星が
いつまでも美しく輝きますよう


              そして今また
              私が生まれた星が
              食べられようとしている



                     父さま
                     黙ってみていることしかできないの?
                     父さまの瞳に映る色は苦しみ


もう
こんな瞳なら
いっそ見えなくなって・・・・


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星見の姫①

青白く光る床が その部屋の広さを余計に際立たせていた。
その部屋に置いてある机、チェスト、ベット その他の家具も その部屋の主人の好みのせいか
しごくシンプルではあったが、少し注意をしてみれば それが非常に洗練されており
高度な技術を持った匠の手によるものであることがわかるであろう。

そして、その部屋の主人は やはり洗練された椅子、彼女が座るにはかなり背もたれの部分が高すぎたが、
に座っていた。

彼女の年はまだ少女といわれる筈であった。

しかし、その顔立ちは美しく整っており、彼女を年齢以上に大人びて見せていたし、自分の背丈よりも伸びた
碧い銀髪が彼女を一層神秘的に見せていた。

何より 彼女の双眸が 彼女を普通の人間とはまさに違うことを雄弁に物語っていた。
彼女の瞳の色は深く澄んだ黒水晶のようであり、普通の人間が持つ瞳孔は外から見ることが出来なかった。

彼女は疲れきっていた。
彼女を暖かく、宝物のように愛する父親に 時折 微笑を返すことがあっても、
彼女を崇拝し、賞賛する人々に対して 一片の表情も表すことはなかった。

彼女はもう何も見たくなかった。
赤く肥大した恒星が爆発して、一つの星系が失われて行く度、
暗黒の闇に星が一つ消えて行く度に彼女は感情を一つづつ失っていった。

見たくなくても見えてしまう未来。

人々は彼女のことを畏敬の念をこめこう呼んだ。

「星見の姫」と。

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Magic Umbrella Ⅱ ③-2

「着いたよ。おばあちゃん、着いた!」

「そうだね。どれ、早速 一晩過ごす準備をすることにしようか。宙、ちょっと手伝ってちょうだい。
 それが終わったら穴を掘って。
 そんなに深くなくていいよ。その間に ばあちゃんは、星を見るためのベットをこしらえるから。」

そう言って、おばあちゃんはカンテラを地面に置くと手馴れた手つきで長い支柱を2本組み立てると、
一番先に付いてる紐に持ってきた蚊帳の輪っかを結びつけた。

次に長い棒で支柱のついてない蚊帳の輪っかを木の上のほうに取り付けてあったフックに引っ掛けた。
どうやら、すでに昼のうちに蚊帳を取り付けるための準備がしてあったようだ。
2本の木に蚊帳の2つの端の輪っかを取り付けると、今度は1本の支柱を立てて僕に支えさせ、
その間に支柱を2本のロープで地面にピンと張った。
同じようにもう1本の支柱も立て終わると、森の中に蚊帳がある不思議な空間ができあがった。

僕らはさっそくその蚊帳の中に入り込むと、僕は穴を掘りはじめ、おばあちゃんは今度は短い支柱を
つかってハンモックをささえる骨組みを組み始めた。

「おばあちゃんって色んなことができてスゴイね。」

本当に感心して僕はおばあちゃんにそう言うと

「なぁに。好きなだけだよ、こういうことが。慣れたら宙もすぐに出来るようになるよ。」

「そうかなぁ?」

「そうだよ。何事も慣れだよ。あとは好きになったら上手くなるもんさ。」

おばあちゃんはそう言って笑うと、ハンモックのネットの部分を取り付けにかかった。

「さ、もうすぐ出来上がるよ。特製の夜空観察のベットがね。」

嬉しそうにおばあちゃんが言う。僕は急いで穴を掘り終わると、蚊帳の支柱になった木に
置いてあった(これも昼間におばあちゃんが用意してくれてた)薪をその穴の中に並べ始めた。

ハンモックを作り終えたおばあちゃんがやってきて、その薪に火をつける。
パチパチという音がしだして、しばらくすると小さいけれど焚き火が出来上がった。

「どうやら出来上がったようだね。 宙、ご苦労様。」

「おばあちゃんこそお疲れ様。」

焚き火は小さかったけれど その燃える火の色は僕をとても安心させてくれた。
その焚き火の横で、携帯バーナーでお湯を沸かして僕らは熱いココアを飲んだ。
それは今まで飲んだ どのココアより甘くて、僕をとっても嬉しくさせた。

それが終わると僕らはハンモックの上に寝袋ごと横たわった。

「さて、何から話そうかね。・・・・・・・そう、その日もこんな星で空が埋め尽くされるような夜だったよ。
 そんな夜にばあちゃんとじいちゃんは初めて出会ったのさ・・・・」

おばあちゃんが話し始めた。夜空を眺めながらそれを聞いている僕の視界に、
右から左へと一つ流れ星が流れて消えた。

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Magic Umbrella Ⅱ ③-1

おばあちゃん家にきて初めての日の晩御飯はカレーだった。おばあちゃんの作るカレーは
豚肉とジャガイモの他に庭でとれたナスやきゅうりが入っている。

そして結構辛口だ。自分の家ではパパもママも甘いのが好き(というより辛いのが苦手みたい^^;)
だから家で作るカレーはいつも甘口だ。

おばあちゃんはそれを知ってるけど、別に僕が来たからといって味付けを変えることはしない。
でも僕はおばあちゃんの作る辛口カレーも結構好きだ。カレーのルーは水みたいにサラサラしてるけど
それがなんだか野菜とよく合って普段あまり野菜をたべない僕でも、このカレーに入ってる野菜はたくさん食べられる。

そんな辛口カレーを食べ終わって、体中から吹き出た汗を拭きながら団扇を扇いでいたときだった。

おばあちゃんはちょっと空を見てくるといって外に出ていた。そして戻ってきたかと思うと急に僕にこう尋ねたのだ。

「ねぇ、宙(そら)。お前、自分の名前を誰が付けたのか知ってるかい?」
「え!?いきなり何よ。そりゃパパかママが付けたんじゃないの?」

「違うんだよ。お前の名前はねぇ、おじいちゃんが付けたんだよ。実の孫に変わった名前をつけるもんだと
 私も驚いたもんだけど。今思うと、じいちゃんは何か分かっていたのかもしれないねぇ・・・・」
「何?ナンノコト!? 」

「・・・今日はいい天気で満点の星空だ。じいちゃんの話をするにはいい日なのかもしれないねぇ。
 宙、ちょっと押入れから蚊帳とっておいで。
 前からの約束どおり、今日は山の中で一晩過ごすことにしようじゃないか。
 ばあちゃんは蚊取り線香と物置からハンモック持ってくるから。」

「ええ!もうあの約束やっちゃうの!?
 嬉しいけど、今回のメインイベントなんだからもっと後のほうでもいいのに・・・」

「なに、楽しかったらまたやればいいことさ。ささ、早く持っておいで。ばあちゃんはそれと寝袋も用意しなくちゃね。」
「うん わかった。じゃあ蚊帳持ってくる。」

僕たちは夜 山に泊まるための準備を始めた。もっていくものは他にもあった。僕が持ってきたラジオと双眼鏡。
懐中電灯に、カンテラ。それに夜食用のカップラーメンを食べるために小さいバーナーとヤカン。
勿論カップラーメンとそしてお菓子。その他いろいろ・・・

それは僕のリュックにぎゅうぎゅうに詰められた。ヤカンは入らなかったので懐中電灯と一緒に僕が持つことになった。

おばあちゃんの荷物はもっとすごかった。蚊帳もハンモックもそうだけど、急に雨に降られたとき用に
小さいテントもあったし、蚊帳やハンモックをつるための特注(!)の折りたたみ式の支柱も
おばあちゃんが持つのだ。

「おばあちゃん、スゴイ荷物だけど大丈夫?」
「なぁに、このくらい何ともないさ。軽いものばっかりだからね、見た目が大きいだけ。」

結局、おばあちゃんが行こうと言い出してから1時間後 僕らは裏山への真っ暗な道を歩き出した。
昨年、お昼にはよく遊んだ裏山だけど 真っ暗な登山口はなんだかお化けが口を開いているようで、
なんだかとても怖い。僕が入り口で立ち止まるとおばあちゃんは僕の肩を(ぽんっ)と叩き、

「大丈夫さ。ばあちゃんがいるからね。肩に手を置いてあげるから宙は前を歩きなさい。
 ほら、懐中電灯を持ってね。ばあちゃんはこのカンテラで周りを明るく照らしてあげるから。」

そう言ってニッコリ笑った。僕はごくりと唾を飲み込むと、ゆっくり登山口へと歩きだした。
ばあちゃんが照らしてくれるカンテラの灯りはとても暖かい色で、怖いはずの真っ暗道も少しだけ
安心して進むことができた。

それでも、時々どこからか聞こえてくる ガサガサッっていう音に驚くと、
ばあちゃんは肩にあてた手で僕の頭の上を撫でてくれた。
そうして僕らはおっかなびっくり(というより、怖がってたのは僕だけだけど)
歩き続けて、ようやく目的の裏山の広場に辿り着いた。

家を出て30分くらいで着いたそこは、広場というには狭すぎるけど なんとかミニサッカーくらいは
できる位の広さがあって、昼間ならよくここでお弁当を食べたりしたのだ。

そして夜は唯一夜空を見上げる空間がある場所だった。

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Magic Umbrella Ⅱ ②-2

次の日、僕はうまれて初めて一人で電車に乗った。ママは「やっぱり私もついて家まで送っていこうかしら。」と言っていたけど、僕は「大丈夫だよっ!」って断った。
もう小さな子供じゃないんだよ。ママったら本当に心配症なんだから。結局、夕食の時にまで電車の乗り方や乗換えの駅を散々確認させられ、行く前から少し疲れちゃった。

電車の中で漫画を読んだり、景色を見たり。パパやママとは何度も一緒に乗った電車だけど、一人で見る電車の窓からの風景はいつもよりキラキラしている気がした。
景色を見ていると、あっという間に電車は目的の駅のホームに滑り込んだ。もう出発した駅から4時間もたったんだ。
今時珍しい木造の駅を出ると、おばあちゃんが自転車で迎えに来てくれていた。
嬉しそうに手を振っている。僕も思い切り手を振りかえした。

「おばあちゃん、きたよ~♪」

おばあちゃん家は平屋だけど、広い庭がある。かなり広いから庭の半分は家庭菜園になっていて、毎年ここで生りたてのトマトやキュウリを朝起きてから収穫するのが僕の仕事の一つだ。それを裏山から引いている冷たい水で冷やす。お昼なんかはスイカを冷やして食べると最高に美味しい。
スイカを食べるのはいつも庭を見ながら広い縁側に座って食べる。この縁側が僕は大好きだ。おばあちゃんの家に到着すると僕はすぐ、持ってきた荷物を
その縁側に広げた。小型ラジオに双眼鏡、虫眼鏡に水着とゴーグル、そしてたくさんの宿題。ずらずらとそれを並べていると おばあちゃんはふぅ~とため息を着いた。

「なんだい、そんなにいっぱい宿題があるのかい?まったく無粋な先生だねぇ~」

やれやれ しょうがない。といった感じでおばあちゃんは教科書をパラパラめくり、すぐにパタンと閉じた。
そして僕のほうを見て(お手上げだよ。)って感じで両手を掲げて見せた。

(え??)

「こりゃ、私の手に負えないねえ・・・・ちょっと待ってな。」

おばあちゃんはそう言うと、電話をかけ始めた。

「あ、カヲリさん?私だけど。ちょっとタカトシいるかい?そう?代わって下さいな。あ、タカトシかい?
 今年は夏 家に来るって言ってただろ。いつ来るつもりだい。
 何、お盆?もっと早く来な。そう明日にでも。無理?あんた自由業してんだからもっと早く来れるだろ。
 何?駄目?ちょっとカヲリさんに代わりな。あ、カヲリさん。ちょっと相談があるんだけど、来週くらいに2人そろって
 家に来れないかね。OK? さすがカヲリさん話がわかるねぇ。じゃ、お願いね。」

チン。と電話を切るとおばあちゃんは僕を見てにっこり笑った。

「よし。これで家庭教師は確保したよ。来るのは来週だから、それまでは ばあちゃんと思いっきり遊ぼうねぇ。」

そう言って僕にウィンクしてみせる。タカトシ叔父さんとカヲリ叔母さんには悪いけど、この際そうさせてもらおう。

「おや、その傘は・・・・」

僕が荷物を広げている傍らで、その荷物を眺めているおばあちゃんが目に留めたのは あのボロ傘だった。
それをそっと手に取りじぃぃぃっとながめている。

「その傘がどうかしたの?」

僕は気になって尋ねてみた。おばあちゃんがしみじみとした声で答えるともなく呟く。

「なつかしいねぇ・・・・」

(!!!!!)

「おばあちゃん、この傘のこと知ってるの!?」

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Magic Umbrella Ⅱ ②-1

僕はその不思議な記号のハガキを読んでみた。そこには

「お久しぶりだね、選ばれし旅人くん。君をちょっとしたパーティーにご招待したいんだが、ご都合はどうだろう?
 それとちょっと困ったことがあってね。少しばかし君の力を借りたいんだ。どうだろう?ほんの一週間ほどなんだが
 来てくれると嬉しいし、助かるんだがね。少し考えてみてくれたまえ。
 いい返事を待ってるよ。」

(なんだこりゃ??)

そう思ってハガキの一番下を見ると「差出人:ドクトル ニコット」と書いてある。
ドクトル・ニコット! この傘の使い方を最初に教えてくれたおじさんだ。初めて宇宙で会った人でもある。

(どうしよう?1週間かぁ・・・・ママを心配させたくないし。それに、返事って。宇宙に出せるポストがあるわけじゃないし、
 どうやって返事をしたらいいんだろ?)

結局その日、僕はそのハガキを机の引き出しに大事にしまったまま寝てしまった。

そして、そのまま3日がたった。終業式が終わり、机やロッカーの荷物を山ほど、夏休みの宿題+算数の追加の宿題。
これも山ほど抱えて僕は家に帰ってきた。
玄関に入ると、ママが声をかけてきた。

「帰ったの?おばあちゃんから電話がかかってきてるけど出る~?」

僕は玄関に荷物も宿題もほっぱらかして受話器をとった。

「おばあちゃん!?明日から遊びにいってもいい?僕ずっと楽しみにしてたんだ~♪」
「いいよ。おいでオイデ。ばあちゃんも楽しみなんだから。約束どおり山にも行こうかね。」

さすが僕のおばあちゃん、話がワカル。僕は早速ママに聞いてみる。

「ママ~。おばあちゃんが明日から遊びに来ても良いって言ってくれてるんだけど、行ってもいいよね。」
「え、もう?明日から!?」

(ちょっと代わって)とママが受話器を取る。

「お義母さん。明日からっていうのは・・・・いえ、決してそうじゃないんですけど。ほら、この前の騒ぎで勉強も
 遅れちゃって・・・
 えぇっ!お義母さんが教えてくださるんですか!?お義母さんが教員免許を持っておられるのは知ってますけど。
 はい・・・はい・・・分かりました。」

電話が終わるとママは僕のほうを振り返り、(しょうがないわね。)といった感じで僕を見た。

「おばあちゃんが勉強も見てくれるって。ママも今は仕事が忙しいし・・・明日から2週間、おばあちゃんの家に行って
 らっしゃい。絶対、向こうでも勉強するのよ。約束だからね!」

僕はママに大きく肯いた。やったね!さすがおばあちゃん。電話の向こう側でウィンクしているおばあちゃんの顔が見えた気がした。

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Magic Umbrella Ⅱ ②-1

僕はその不思議な記号のハガキを読んでみた。そこには

「お久しぶりだね、選ばれし旅人くん。君をちょっとしたパーティーにご招待したいんだが、ご都合はどうだろう?
 それとちょっと困ったことがあってね。少しばかし君の力を借りたいんだ。どうだろう?ほんの一週間ほどなんだが
 来てくれると嬉しいし、助かるんだがね。少し考えてみてくれたまえ。
 いい返事を待ってるよ。」

(なんだこりゃ??)

そう思ってハガキの一番下を見ると「差出人:ドクトル ニコット」と書いてある。
ドクトル・ニコット! この傘の使い方を最初に教えてくれたおじさんだ。初めて宇宙で会った人でもある。

(どうしよう?1週間かぁ・・・・ママを心配させたくないし。それに、返事って。宇宙に出せるポストがあるわけじゃないし、
 どうやって返事をしたらいいんだろ?)

結局その日、僕はそのハガキを机の引き出しに大事にしまったまま寝てしまった。

そして、そのまま3日がたった。終業式が終わり、机やロッカーの荷物を山ほど、夏休みの宿題+算数の追加の宿題。
これも山ほど抱えて僕は家に帰ってきた。
玄関に入ると、ママが声をかけてきた。

「帰ったの?おばあちゃんから電話がかかってきてるけど出る~?」

僕は玄関に荷物も宿題もほっぱらかして受話器をとった。

「おばあちゃん!?明日から遊びにいってもいい?僕ずっと楽しみにしてたんだ~♪」
「いいよ。おいでオイデ。ばあちゃんも楽しみなんだから。約束どおり山にも行こうかね。」

さすが僕のおばあちゃん、話がワカル。僕は早速ママに聞いてみる。

「ママ~。おばあちゃんが明日から遊びに来ても良いって言ってくれてるんだけど、行ってもいいよね。」
「え、もう?明日から!?」

(ちょっと代わって)とママが受話器を取る。

「お義母さん。明日からっていうのは・・・・いえ、決してそうじゃないんですけど。ほら、この前の騒ぎで勉強も
 遅れちゃって・・・
 えぇっ!お義母さんが教えてくださるんですか!?お義母さんが教員免許を持っておられるのは知ってますけど。
 はい・・・はい・・・分かりました。」

電話が終わるとママは僕のほうを振り返り、(しょうがないわね。)といった感じで僕を見た。

「おばあちゃんが勉強も見てくれるって。ママも今は仕事が忙しいし・・・明日から2週間、おばあちゃんの家に行って
 らっしゃい。絶対、向こうでも勉強するのよ。約束だからね!」

僕はママに大きく肯いた。やったね!さすがおばあちゃん。電話の向こう側でウィンクしているおばあちゃんの顔が見えた気がした。

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